黒翼。




俺の羽は使えない。
使い物にならない。

子供の頃、意地張って、無理して、飛ぼうとして、

折れた。





槇本まきもと イヨは進路相談室にいた。
担任と机をはさんで、向かい合うように座っている。
今日で進路相談は終わり。槇本が一番最後だった。
担任の夢見小路ゆめみこうじ 先生は、槇本の進路について悩んでいた。
牧本は、というと。
いつも授業で見せるように、肘をついて、足を横に投げ出し、
先生の顔を見る事なく、かったるそうに構えていた。

そんな槇本の態度に、夢見小路は怒る事無く、真剣に悩み、話を始めた。

「槇本は魔族と人間のハーフだもんな。
剣術も武術も、かなり良いんだが。」

「足がな…。」

言いたい事は、槇本もよく解っていた。

「俺は戦場じゃあ、足手まとい。」

言われる前に、自ら口にした。


足手まとい。


夢見小路は暗い顔をして、一つ小さく頷いた。

「残念だが、…そうだな。」

魔族と人間のハーフ。
別段、珍しい事では無い。
しかし、翼が折れて、飛べなくなった槇本にとっては、
重大な事実だ。

翼を持った魔族の移動手段は飛行。
つまり、足を使わない。
よって個体差は有れど、足での移動は辛いのだ。
槇本は、人間の血も入っている事から、日常歩く事に苦は無いが、
長時間の激しい運動などは無理があった。
長距離競走の時には、無理をして倒れる事もあったぐらいで。
いくら学校の授業の成績が良くても、これは戦場では致命的であった。


「上に上がるなら白組だな。」


進級するなら肆年よねん白組。

白組なら、戦略や策略を集中的に学ぶ事となる。
進級試験も参謀家としての知識・指示力・機転などの審査をするペーパーテストと、実技。
参年参謀家代表の槇本なら、必ず進級出来るだろう。

「上に上がるか?」
「いや、参年のままで良いっすよ。俺、別に軍に行きたい訳じゃないんで。」
「…じゃあ、どうするんだ?軍に行かないなら、就職か、進学か…。」
「まだ、良いでしょ?18だし。」
「まだって。もう18だろ?参年だし。もし、大学に行くなら」
「行きません。」


「…軍に行かないで、大学にも行かない。
 ぎりぎりの年齢まで一ノ瀬にいて、何処に就職する気だ?
 普通の学校じゃ無いんだから。」

「わかってます。」




じゃあ、どうすれば良いんだ?
何処なら、いいんだ?




「槇本なら、ノアール・リリィの大学にも行けるんじゃないか?」


アカデミー・ノアール・リリィ。
Dr.リラーの統括地域にある、一ノ瀬学園と同様に、神国五大学校の一つ。
魔力・魔法力のある者が集う学校。
おのずと生徒も、魔族や、そのハーフが多い。


「(俺の半端な魔力じゃ、無理だ。)」




人間は、魔族の陰湿さを 知らない 。


大した魔力も無い、翼も使えない。
 俺みたいな奴は、
  バカにされて、良い暇つぶしにされるのがオチだ。

魔族の中に。
俺の居場所なんて無い。





「参年のまま、在学出来るギリギリの年齢までいたら、軍以外に就職の道がない。
 どうせ、軍に入るなら進級した方が待遇が良い。
 それか、今18だから、ここを卒業して、他の普通の大学か、ノアール・リリィに進学する。
 進学するならするで、手続きとか、試験とか色々あるから」


「今、決めないとヤバイぞ。」


「…はい。」


夢見小路の「ヤバイ」は、かなり重かった。





昔、母親が言ってた。

「人間は優しい。」

確かに、そうだ。
でも。
だからって。
俺がその中に、居て良い保障なんて、何処にも無い。


何処に居て良いか

解らない。



「先生。センセーは、俺がどうするのが一番良いと思いますか?」
「…、一番かどうか解らないが。やっぱり、上に上がるのが良いと思うな。
 槇本には、進級出来る実力がある。
 ただ、まあ、解ってるだろうが。
 その場合は、ほぼ100%軍に行くと、考えた方が良いな。」

槇本の家は、武家でも、軍家でもない、一般的な家庭。
家業で道場をしている訳でもない。
家を継ぐ必要性は特に無いので、自由だが。
かわりに、白組に進級すると軍ぐらいしか、就職先がなくなる。

「何か、他にやりたい仕事とか無いか?」

「別に。」

夢見小路は、少し躊躇った。
今、やりたい事が無くても、これから、見つかった場合。
それも、軍とは全く関係ない事だった場合。
進級してしまったら、その夢の実現は、本当に夢になってしまうだろう。
なるべくなら、選ぶ道は多い方が良い。
しかし、参年のまま在学していても、時間の無駄になってしまう気がして。

せめて、他の組なら。白組よりは、選ぶ道は多くなる。

「槇本。羽が治れば、肆年よねんのどの組にも入れると思うんだが。
 治らない事は無いだろ?」


あんな、羽。
見るのも耐えらんねぇ、あんな羽が。


「治った所で、飛べはしません。」
「そんな事無いだろ?
 魔族で飛ぶ事は、人間で言う歩く事と同じだろ。
 リハビリっていうかな。していけば、飛べる様になる。
 実際、実例はあるしな。」

「俺は、魔族じゃない。」

「人間でもリハビリしたら、歩ける様になる。それと、同じだ。」

「俺は人間じゃない。」

「じゃあ、何だ?」




魔族じゃない。人間じゃない。


だから。





「両方です。」




魔族であって。人間でもある。





「…飛べないんだ…。」



「飛べる訳無い!!
 治ったって、俺の魔力じゃ飛べやしない!
 それに!先生、知ってんだろ!?
 
 俺が、高所恐怖症なのを!!」




「…知ってる。
 けど、その高い所が駄目なのは。
 高い所から、落ちるのが駄目なんだろ?」



そうだ。堕ちていったんだ。
  羽を広げたら、折れて。
地面に叩き付けられて。
 体が、ぐちゃぐちゃになって。

羽も。





「怖い事だって、克服する事が出来る。」



母親 あいつ が言ってた。
   「人間は優しい。」



「飛べない事はない。気の持ちようって言うだろ。」



 けど。人間は優しすぎて。
もっともらしい理由をつけて、
 無責任に  背中を押す 。



「気の持ちようで、どうにかなるんなら。
 俺は、もう、どうにかなってる!」



傷つくのは、俺だ。



「先生は、完全に人間だから、そんな事言えんだ。」



どうしようもない。



「俺は、不完全だ。」



ああ、俺。何が良いたいんだ?

俺、どうしたいんだ?



「中途半端で、役に立たねぇ。」



何て、言って欲しいんだ?

どうしてほしいんだ?


何にも、わかんねぇ。





「人間と、魔族。何が違うんだ?」

「?体とか、考え方とか。全部だよ。」

「なら、槇本は、それを、全部持ってるんだ。」


「は?」






「槇本は、人間と魔族の両方の考え方とか、他の色んな事を知ってるし、持ってるんだ。

 役に立たないなんて事無い。

 その、白衣が証拠だろ?

 槇本は、自分が不完全だと思ったから、人より何倍も頑張ってきたんだろ?

 だから、今、白衣を着ている。

 学校も、俺も、他の先生だって、槇本を高く評価してる。

 進級の事だって、俺だけの薦めじゃなくて、学校自体から薦められてる。

 つまり、槇本を必要としてるんだ。」














「…その、槇本。こんな事言った後だが。」
「…はい。」
「あのな…。」
「はい。」
「槇本は、進級する気も、軍に行く気も、大学に行く気もないなら。
 だったら、ほら。永久就職、って手もあるぞ…!」

「…何すか?永久就職って?」




「・・・。」



「あ、あれだよ!ほら!!その…!」
「センセー、ありがとうございます。」
「ああ!?え、それは」
「俺、最初、先生の事。
 結構無責任な奴だと思ってたんすけど。」
「…そ、そうか。俺は、そんな風に見られてたのか…。」
「けど、何か。」
「けど!?」
「無責任も良いもんですね。」
「・・・。」

「先生、俺、ちょっとやる気出てきた。飛べる気はしないけど。
 俺なりに、まだ、やれそうな気がする。」



「俺、上に行きます。

 肆年よねんの白組。手続きの事は、また、今度で良いっすよね?」


「あ、ああ。そうか。それは、良かった…。…よかった…。」
「じゃ、センセーお疲れ様でした!長々とありがとうございます。」
「ああ。…。」













ここにいても、良いんだろ?










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2006/11/4
ノートに書き走ったものに、加筆修正した物。
んー、夢見小路先生はヘタレだと思う。(失礼!)
マッキー(槇本君)は、恋愛に関しては恐ろしく鈍感だし。
勇気をふり絞って告白しても。
夢見「つ、付き合ってほしいんだ!!」
槇本「あ?何にですか?買い物?」
夢見「・・・。」
って、なりそうな予感が。
あー、先生可哀相だ。。。
神国は自由恋愛主義なので、先生と生徒が恋仲になっても、
特に問題ないです。