第六話




「…昨日?変な夢みた。」
「…ぷ?」


目が覚めたら、何故か次の日の朝だった。
おかしい。
俺の夕方から夜にかけての自由時間は何処に行った。
晩飯食ってないし、まぁ一食くらい食わなくたって死にはしないけどさ。
のんびりテレビも見てないし、つっても親父が駄々こねて俺の見たい番組はほとんど見れねーんだけど。
何より風呂に入ってねぇじゃねーか。
まさか、あのまま朝まで寝入ってしまうとは思わなかった。

とは言え、幸いにも起きたのが6時になったばかりで、風呂にはゆっくり入れた。
その上、いつもみたいに頼んでも無いのに母親がうざったらしく起こしに来る事はない。
何故なら風呂から上がった時に、洗面所で起き抜けの母親に会って、しっかりと朝の挨拶を済ませたからだ。

朝食が出来上がるまでの時間で、今日の授業の準備も出来た。
後は着替えてリビングに下りて、朝飯食って学校に行くだけだ。

たまには早寝早起きも悪くないな。
つーか、たまにだから良いのか。


で、制服のネクタイを絞めながらふと思いだした事。

変な夢。

「どんな夢っぷぅ?」
「…なんだったかな?」

自分で話題を振っておいてそれはねぇだろ、とか思ったけど。
ホントに思い出せない。
なんで夢ってのは起きた瞬間に忘れちまうんだろ。

「聖夜の見た夢なんか、解らないっぷぅよ。」
そりゃ、そうだよな。
俺も人が見た夢なんか解んねーや。
「なんでもない。」
そう言ってプー太郎を掴んで鞄にぶち込んだ。
後は上着を羽織るだけなんだけど、それは飯を食ってからだから、鞄と上着を手に持って部屋を出た。
「聖夜!もっと丁寧に扱うっぷ!!」
「おい、喋るな。」
鞄は閉めているというのに、随分デカイ声が聞こえる。
親に見られたら何て説明させる気だ。
俺は絶対、魔女っ子になりました、なんて言いたくないからな。
絶対言いたくないからな。
ていうか、早く辞めさせろ!

…ていうか、どうしたら辞められるんですか・・?


深くため息をついた。

毎日、いつ来るか解らない敵に備えるのは緊張する。
それもこれも、このプー太郎がやってきて、まぁそれはもうどうしようもないか。
結局、プー太郎の言う“マジカルクイーン”なんて得体えたいの知れない奴を倒さないと、俺の平穏な日々は帰って来ないんだよな。
「何処にいるんだよ“クイーン”…。」
早くやってきてくれねーと、俺のキャパシティが持たないっての。


「誰か探してるのぉ?」

「煤I!!!!」


なぁああああああああああああああああああ!!!

「か、かか、ぁさ…!」
「どうしたのぉ、せえ君。面白い顔ー♪」

面白くねぇよ!触るな!!


突如として湧いて出てきて吃驚びっくりした上に、独り言まで聞かれた。
だから、頬っぺたを突くな!

俺の露骨に嫌がる仕草を、おもしろそーーーーーに見るこいつは母親だ。
せえ君とは俺の事。
俺に“聖夜”と名付けた張本人の癖に、呼び方はせえ君。
せめて“せい君”にしろよ。…あんま変わんねーけど。


「ご飯出来たから呼びに来たんだけど。クイーンってだぇれ??」
「…なんでもねぇよ。」
「あーっ、もしかしてぇ、いやらしい話っ?」
「なんでそうなるんだよ…!!!」
「うふふふふー♡思春期だもんねー♪恥かしがっちゃって可愛い♡」

やべぇ、
















                    すげー、鬱陶うっとうしい。











「違う。ゲームの話。」
「げーむ?」
マジで鬱陶しくて咄嗟とっさにでた嘘だが、誤魔化せるか。
「ボスのクイーンまでの道のりが長くて、めんどくさいから、
 さっさと出てきて来れないかなー、って思ってただけ。」
ちょっと本音も入ってるから、そんなに嘘っぽくはないだろ。

「そうなのー?でも直ぐに出てきたら困らない?」


さっさと出てきてくれたら万々歳だけどな。
何言ってんだ?

「ゲームって、初めはレベルが低いんでしょ。
 それなのに、いきなりボスが出てきたら、せえ君やられちゃうわよ。」
それはゲームの話で…。


・・

・・・・・




「…そうだよな。」


もし、今のままで、本当に“マジカルクイーン”が出てきたら、俺は勝てるのか?
否、勝てない。
しかも、リセットは無い。

レベルの上限が単純に100だったら、俺は10が近づいたか、10になったくらいだ。
覚えた魔法だって未だ4つ。
敵に勝ってはいても、何となく苦戦している状況。
しかも、その敵は序盤の雑魚 ざこだろう。

こんなんじゃあ、クイーンが出てきたって、勝てるもんか。


「せえ君。ゲームも良いけど、程々にしないとダメよぉ?」
「…ああ、解った。」
「最近、せえ君ってば上の空だからぁ、ママ心配よ?」
「…ああ、解った。」
「…‥せえ君、明日お休みだからママとデートしよぉか?」
「…ああ、…・・しねーよ…!!」

「えええええええええ、ひっどーーーーいっ!」

酷くない。
いい年してぶりっ子してるような母親とデートする訳ないだろ。
何、言ってんだ。気持ち悪ぃ。

あーあ、こんな所で立ち話してるから朝食をゆっくり過ごす時間がなくなった。
さっさと食って出かけよ。

「もう、もうっ!せえ君の意地悪ぅ!」

なんか五月蠅うるさいけど、無視。




早々に朝食を済まし、いつものように家を出た。

結局、出かける時間はいつもと変わらない。
空だっていつもと変わらない。
道路だって、電車だって。
学校に行けば、いつもの友達に、いつもの授業。
なんにも変わらない。
可笑しなところはない。

俺が魔女っ子だって事以外は。




駅が近づく頃、最近起こったもう一つのイレギュラー分子。

「…あ、一大橋ひとつおおはし?」

俺に気付いたのか、笑顔で駆け寄ってくる。
なんでか最近よく会うんだよな。

「お早う御座います、先輩っ。」

そして会うたびに、嬉しそうに声を掛けてきてくれる。
慕ってくれる後輩がいるって、ちょっと良いな。

「おはよ。」
「はい、お早う御座いますっ。」
それは朝一の飛び切りの笑顔なのか。
だんだん一大橋の煌々こうこうしさにも慣れて、結構まともに話せるようになった。
「先輩、お邪魔でなければご一緒させて下さい。」
行き先は同じ学校なんだ。
わざわざ了承を得なくても、可愛げのある後輩を邪険にする気は無い。

他愛の無い話をぽつぽつとしながら、今朝は少し違った登校となった。



こういうイレギュラーなら、日常であってもなんら抵抗は無いのにな。







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最終的なオチは解っているのに、そこにたどり着けるのか…解りません…!
うう…先が見えない…・・。

20090621 書き下ろし。