ナルシスト






眠りにつこうと必死になっていた僕に、目覚めたあいつが喋りだす。
そっと近くに寄り添って。

「眠りに入る前って嫌だよね。
僕は眠る前って嫌いなんだ。
なのに皆は、僕を無理矢理寝かそうする。
酷いよ。
僕、もっと皆で遊びたいのに。
だから、ずぅーっと起きていたい。
君はどう?
眠る前は、君も嫌だろ?
だって、嫌な事ばかり思い出すもんね。
そうでしょ?
それは、だんだん怖い事に膨らんでいって。
君は、いつもより大きな疑心暗鬼にかられる。
ねぇ、寝たりしないで。
僕のお話を聞いてよ。」

そう言って、こいつはいつものように喋り続ける。

厭な事ばかり言うんだ。
けどそれは、正しい事だった。
大体そうだ。

「最近君は怠けているよね。どうしたの?
そんなんじゃあ、見捨てられるって解ってるのに。
既に寂しいんだろ?
懐かしい見捨てられ不安が顔を出してる。
君はずっと足掻き続けなきゃ。
解ってるだろ?
力は抜いたら駄目。
本当の君なんて、嫌われて当然なんだから。
休んじゃ駄目だよ。
捨てられちゃうよ。
全部君の出来の悪さの所為なんだから。
頑張って頑張って、必死に足掻いてやっと人並みの情けを得られるかどうかなんだから。
本当だったら君みたいな出来損ないは、人並みの幸福だって許されないんだ。
人に想われるなんてないんだから。
愛されるなんて思い上がりでしょ。
調子にのったら駄目だよ。
解ってるだろ、君は。
なのに、こんなに怠けちゃって。
僕は前の君が好きだな。
今の君は、全然可愛くない。
世の中、可愛ければ大事にしてくれるのを知ってるだろ?
もちろん外見じゃあないよ。
ま、解ってるだろうけど。
可愛ければ、構ってくれるし、優しくしてくれる。
解ってるだろ?
もうちょっと上手くやれないの?
出来損ないだから出来ないの?
でも僕、そういうところが好きだよ。
ずっと、出来損ないでいてよ。
皆に可愛がって貰えないのは解ってるでしょ?
だから、僕が構ってあげる。
もちろん、前の君になれたらね。
なるんだよ?
命令だから。
僕を不快させた罰。」

そう言って、いつものあの黒い影がさす、ニヤリとした顔を向けた。
不快に、と言ってるけど本当はそんな事ないんだ。
だって、こいつは、ただ遊んでるだけなんだ。
不快にさせたと、脅迫してごめんなさいなんて泣く僕の姿を期待したんだろう。
けど僕は、昔の僕じゃないから。
怖くとも何ともなかった。
すると、みるみる興味が薄れたか、つまんない。と一言漏らしてまた眠りについた。

規則的な寝息が聞こえる。
可愛いなあ、なんて思った。
こいつはまだ、こうやって相手を傷付けて、すがられないと安心出来ないんだ。
そうされないと、信じる事が出来なくて。
それくらいしか、自分の寂しい気持ちを伝えられない。
構って欲しいって言えなくて、愛して欲しいって素直になれなくて、
寂しいって気持ちをうやむやにしている。
やっぱり可愛い奴だなんて、今の僕は思った。

形勢逆転じゃないかな?

僕は愛されない事を知っている。
こいつは愛情を渇望している。

昔は惨めに縋ったが、今度はこいつの番なんだ。

耳元で囁いて上げよう。
昔、こいつがやったと同じように。
恐怖と疑惑ばかりを吹き込んで。
泣き出した所で、愛してるだなんて吐き捨てる。

こいつのこういう所が好きなんだ。
愚かで、不出来で、遊ばれて虐められて凌辱されるくらいしか役に立たない。
サンドバックか掃きだめだ。

そんなこいつが、好きなんだ。

真っ黒だったこいつの姿が見えてきた。
やっぱり、こいつも僕なんだ。
確信した、愛してる。
だって、こいつは僕なんだから。

可愛いに決まってる。



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翌日の6日に書いたMemoと少しだけリンクしてたりします。
思わずぺロリと〜。

2008/4/5原文完成。
2009/1/10加筆修正