リアリスト





香ばしい匂い。
パリッと焼き上がったシューに、たっぷりのカスタードクリーム。
小さいお口を広げて、ちょこんとかじる。
口いっぱいに広がっているだろう、甘い感覚に、笑窪を作って喜ぶ。
本当に仕合わせそうに食べている。

少女は、少年に言う。
「君は本当にお菓子が大好きなんだね。」
少年は、口の中のシュークリームを愛おしみながら。
「うん!」
少女は、甘いお紅茶を一口含み。
「幸せそうに食べるね。」
少年は、ありのままに。

「だって、幸せなんだもんっ。」

満面の笑みで。

また、シュークリームをかじる。



「そう、仕合わせなんだ。」
「うんっ。」

屈託の無い笑顔。

シュークリームは、少しづつ、消えていく。


少年は、少女に言う。
「僕ね、お菓子で出来てるんだよっ。」
少女は其れの真意に気付いていながら。
「どうして?」
少年は満足気に。
「だって僕、お菓子大好きで、お菓子いっぱい食べてるから!」


少女の唇は、両端が上がる事になる。


「君がお菓子で出来ているなら、君はお菓子なの?」



少年は、迷う事なく。
「そうなんだっ。」

少女は、また、嗤う。
「じゃあ、君とお菓子は同族なんだ。」

少年は、まさしくその通り、というように、返事をした。


少女の嗤いは止まらない。
身を乗り出し、少年の目を見据えた。

言い放つ。



「共喰いだ。」



少年の目は一瞬、意識を失った。
少年は、其れの真意に気付いていながら。
「どうして?」

少女はやはり其れの真意に気付いていながら。
「君はお菓子を同族だと肯定した。
自分がお菓子で在る、と。
君はその同族を喰べている。
それは、 共喰い でしょ。」



「同族の味は、そんなに美味しい?」







少年は、俯く。


少女は、嗤いを止めた。







少年は、遠慮がちに。
「…冗談だよ?」


少女は何も言わず。


また、少年は。
「…僕がお菓子なんて、冗談だから。
僕、お菓子が大好きだろ。
だから、自分の事をお菓子だなんて言ってみただけだから。
そのくらい好きなんだ。
そうだったら、良いなあ、なんてっ。」

少年は顔を上げた。
笑顔を作って。

少女の目は、真っ直ぐ少年の目を捕らえた。


「解ってるよ。」

と、一言。



二人は、其れら真意を知っていながら。



少女はぶつける。
「君が冗談を言っているのは解ってる。
そして君が。
夢見がちな人格を演じているのも。
頭が足りないふりをしているのも。
すべて解っている!」









少女は言ってしまった。


少年も言ってしまった。










ずっとずっと、気付かないように、知らないふりをしてきたのに。





「だって僕は!そうじゃなきゃ駄目なんだ!!
皆が僕を、そうだと、決め付けるんだ!
そうじゃなかったら、僕を受け入れてくれないんだ!
そうじゃない僕なんて、必要としてくれないんだ!」



少女は、嗤らった。
少年は、泣き出した。


「じゃあ、そんな奴ら、捨てちゃえば良いんだ。」

「違う。僕が捨てられちゃうんだ!」

「じゃあ、もっと上手く演じてよ。見てるこっちは苛々する。」

「好きで演じてるんじゃない!!」



少年は最後に。


「現実なんか欲しくない!
現実なんて見たくない!」



少女も最後に。


「無理だよ。」







「君は、


   私以上に


  リアリストだもの。」







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2007/12/8 完成。