オモチャ箱





七色に塗られたオモチャ箱。
つたない字で“おもちゃばこ”。

人形。車。恐竜。ぬいぐるみ。リボン。
ヘリコプター。ブレスレット。ボール。

箱から、あふれる程のオモチャ。
その中の、白いロボット。
塗装が剥げて、白く透明になったロボットは、
オモチャ箱の中のオモチャ達が外で遊んでいても、
そのロボットだけは、じっと、箱の中にいました。

他のオモチャ達が言います。

“ねえ、一緒に遊ぼうよ。”

マナちゃんも言います。

“ねえ、マナと一緒に遊んで。”

でもロボットは無反応。
ややあって、口を開きました。

“みんなと遊んで、何が楽しいの?”

他のオモチャ達は言いました。

“みんなと遊ぶと楽しいんだよ。”

そしてこうも言いました。

“一人でいて楽しいの?”

ロボットは答えます。

“楽しくなんかないよ。でも、みんなといるより楽だ。”

みんなは顔を見合わせて、それからロボットを見て、
ため息を一つ。
もうロボットに何も言いません。
変わりに、口々に吐き捨てました。

“色のある頃は、あんなに笑っていたのに。”
“あんな奴だなんて、思わなかった。”
“大嘘つきだ。”

ロボットも何も言いません。
ただ、それを見てつぐつぐ思ったのです。

“もうみんなに合わせて笑うのは。
        気遣うのは、疲れたよ。”


独り、箱の中のロボット。
でもマナちゃんは責めたりしませんでした。

他のオモチャ達は不満です。


こんな日が続き、そしてとうとう不満は怒りになり
ロボットに襲い掛かるのです。

みんなはロボットを外に呼び出し、
口々にロボットに対する不満をぶちまけるのです。

ロボットは、何も言いません。
いつものように、無反応。


なんとも思わないのです。
みんなに何を言われても。
どう思われても。

みんなの言葉は、ロボットの気持ちなど全く理解出来ていない、
自分のものさしでしか測れていない、
自分勝手な言葉の礫でした。

何の反応も返さないロボット。
みんなの怒りは大きくなり、
恐竜はロボットを突き飛ばすしたのです。


ドン。


ロボットはオモチャ箱の向こうまで、飛んでいったのです。

その時、ロボットは気付いたのです。


“あ、僕はこんなに軽いんだ。”


そう、プラスチックで出来たロボットは、
とても軽かったのです。
そして、中は   空っぽ   でした。

“僕には、なにも入ってない。空っぽなんだ。
  だから何も感じないだ。”
ロボットは悲嘆に暮れる訳でもなく。
ただ、その事実を、虚無に受け入れたのです。


人形には木屑が。
ぬいぐるみには綿が。
車にだって。ヘリコプターにだって。何かが入っているのです。
あの恐竜だって。何かが入っているのです。


塗装が剥げた、白く透明になったロボットは、
色が無くなった所為で、こうなったのだと思っていました。

でも、よく思い出したら。
色があった頃から、この拭いきれない虚無感。
無気力。
それは決して、否定する事は出来ない事実でした。

マナちゃんはそんなロボットを見て、思いついたのです。
オモチャ箱の奥から、
キラキラ光るビー玉を、いくつも、いくつも拾い出しました。
そしてロボットを手に取り、胸の扉を開けたのです。

小さなマナちゃんの指が、ビー玉を一つ掴み、
ロボットの中に入れたのです。
また一つ掴み、入れ。
また一つ掴み、入れ。
全部で27個入りました。

そのビー玉達はキラキラ光り、
優しい色、鋭い色。
小さい物や、大きな物。
鈍い模様や、猫の目のような模様。
様々なビー玉なのです。

マナちゃんはロボットの胸の扉を閉め、
そっと床に立たせました。
すると、どうでしょう。
ロボットの白い透明な体から、ビー玉の色が透けて見え、
七色に光っています。

“わぁ、きれい。”

オモチャ達は思わず見とれ、
マナちゃんはニッコリ笑いました。

ロボットは自分の体を見て驚きました。
動くたびにビー玉はコロコロ音をたて、まるで笑っているよう。
そして、万華鏡のようにキラキラと色を変えていくのです。

ロボットはマナちゃんに言います。

“ありがとう、マナちゃん!”

マナちゃんはニコニコしながらロボットを撫でました。

“どういたしまして。”

ロボットは今までにない多幸感に胸を躍らせました。

“ああ、もう空っぽじゃないんだ。”


僕の中にはキラキラ光る、
たくさんのビー玉が入っているんだから。






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という夢を見た。
2007/12/14 完成。



夢から覚めた後に。