兄様の弟、シャルマンが。






窓をたたく雨の音が鬱陶しく、纏わり付く湿気が尚苛立たせた。
それなのに、この鈍間のろまな弟が俺の顔色をうかがいながら、おどおどしている。
顔色をうかがわれるのも嫌だし、おどおどしている様子にも腹が立つ。

いや、俺はこれが何をしていても苛々する。


この生き物がとても憎いんだ。





何度も何度も壁や床に叩きつけて、踏みにじった。
泣き叫んで、訳も解らない癖に、
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
許して下さい、と謝り続ける。

耳障りだ。

五月蠅いと怒鳴り、思い切り腹を蹴ると、口から逆流したモノが吹き出る。
まともに咳も出来ずに必死に息をして。
逃げようとしている。

丁度いい所に、燭台。
足のくるぶし目掛けて振り下ろす。

破壊された音共に、悲鳴!

もがく。床を這いずり回り、転がる。
もう片方の足も同様に。

余りにも泣き顔が酷いから、跨り、顔を拳で七発。
腫れ上がり、歯が折れ、鼻も折れて、また血が噴出す。
ヒューヒューと息が漏れる音、その姿。
顔はこの上なく、滑稽。

部屋に響く程嗤った。
面白い顔だ。その方が良い。と声をかけてやる。

まだ俺が何もしていない両手で、俺を押しのけようとしている。
邪魔だ。

うつ伏せに転がせ、腕を掴んだら、不自然な方向に捻る。

肩が外れた。


さあ、今度は何をしてやろう?

見渡す。
ふと目に入ったのはテーブルの上にある、果物ナイフ。
手に取り、光にかざしてみると、キラッと光を返した。
映っているのは、俺の嬉しそうな顔。
綺麗だ。
こんなにも幸せそうな顔をしている。

気付いた。
初めてだ、こんな愉快な気分は。
こんなにも憎かった、この生き物から幸せにしてもらうなんて。

悪くない。

それどころか、可愛く見えるじゃないか!
もっと可愛い所を見せてくれ!

果物ナイフを、胸より少し下に突き刺し、引き下ろす。
思ったよりもよく切れた。
面白いくらい血は噴出す。

綺麗だ。
赫い血が、オレンジ色の髪を、白い肌を侵食して、綺麗だ。
この中身も。
うごいて、エキゾチックで。
何故だろう。こんなにも気分が良い。最高なんだ。
今まで憎かったこの生き物が、とても愛しい。
涙を流しながら、俺を見つめる視線がゾクゾクする!

血をこぼしながら、何か言っている。
何だ?





「  .......ぃ  ...  っあ  、  ま ...... 。 」





            に ・ い ・ さ ・ ま 






「  ...ふ...。

      は、は、はっ。 はっはははははははははは!!!






愛しい弟!
まだ、そうやって呼んでくれるんだな?







「悪かったな、シャルマン。こんな事して。」


「愛してるんだ。」



「俺の愛し方を、受け入れてくれないか?」





これからは、俺がお前を幸せにするから。





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結構好きなお話なんで、晒してみました。
序章の部分に近いので、解りやすくしようと加筆修正。
はたして、解りやすくなっているのでしょうか?

話の全てを書ききる、自信と気力が無いので結末だけ言うと。
弟さんは、今とても幸せです。
兄様が責任と愛情をもって幸せにしています。


2006/12/11 原文完成。